1995年1月、静岡県生まれ。会社員&写真家 Instagram

私は地元を出るまで、真の意味で”カルチャー”を体得している人と出会ったことはなかったと思う。

つまりそれは、自分だけのクリエイティブと、それを実行するためのその人だけの価値観を持ち合わせている人、と言い換えてもいいのかもしれない。

もし、高校時代にそのような人との出会いがあれば……と思わないこともない。

結局私は”ヒト”に出会う前に、”雑誌”に出会った。雑多に並べられたあらゆる情報が、あるひとつの切り口を与えられるだけで、ひとつの美しい世界を作る。その手法とデザインに感激したし、雑誌が見せる横断的な”カルチャー”の世界を自分も作ってみたいと思った(そのためにはやはり紙の雑誌でなければいけないと思うが……)。

それから私はどうにかして雑誌の世界に入り込むことになるが、仕事をしていく中で特に感銘を受けた存在が「写真家」だった。今は誰もが写真を撮れる時代である。優れた機能を持つカメラをみな持ち歩いている。

しかし、確実にアマチュアとプロの境界はある。

その違いは何なのか、私は雑誌の仕事をするまで、やはり全くわかっていなかった。

彼ら「写真家」たちは、自分の価値観を写真に写していた。単純に良いカメラで綺麗に撮っているのではない。自分の美意識やフェチズム、コミュニケーション論やテンション、世界や事象に対する距離感。それらと生物、自然、人工物といった被写体が混ざり合った唯一無二の空間。全てがレンズに集約されて、シャッターは切られる。

そこに写るのは、彼らだけが見えている世界だ。

アマチュアとプロの写真家の違いについてのひとつには「その人だけの世界を持ち合わせているか」があると、私は考える。それもチンケな世界ではない。圧倒的な何かを孕んだ世界だ。

今回会う彼と私は高校一年生の時のクラスメートだった。そのクラスは私としては楽しいクラスで、彼とは二年生からは違うクラスとなり部活も違ったため、単純な接点は無くなったはずだがそれ以降も仲良くしていた。高校卒業以来会うことはなかったが、Instagramでなんとなくの彼の近況は知っていた。

そんな彼に話を聞いてみたいと思ったのは、昨年の12月に彼がInstagramにあげた投稿がきっかけだった。

どうやら、彼は写真展を開くらしい。

一人の友人と共同で、二人展という形で行うとのことだった。

なぜ彼は写真展を開くことになったのだろう。野球部だった彼の姿からは、写真展を開く現在は全く想像できなかった。これは是非とも見に行きたいと思ったが、場所が静岡の沼津だったこともあり、結局都合がつかず行けなかった。

行けなかったからこそ、会って話してみたいと思い、久しぶりに連絡をしてみた。

さあ、彼は写真展を作り上げた。

”作る人”になることは、そのクリエイティブの価値を問われる立場に回るということになる。

彼は今アマチュアなのか、プロなのか?

彼だけの世界を、彼は自覚しているのか?

これで、食っていこうとしているのか?

次々と、そして尚早に、彼への問いかけが頭に浮かぶ。

でもこれらはあまり意味のない質問かもしれない。

何にせよ、彼はボーダーラインの上に立つ資格を手にしている。

それはとてつもない人生の勲章だと、私は思う。

静岡駅近くのホテルのラウンジで彼を待つ。

彼のことは、高校時代は苗字で読んでいたが、この記事では写真家として活動している時の名前で呼ぼうと思う。

ウェイターを呼び、アイスコーヒーを頼む。ラウンジには中年の女性たちの声が響いている。落ち着いた場所でできればと思いこの場所にしたが、間違いだったかもしれない。

インスタグラムのメッセージに彼から連絡が来た。

「もうすぐ着く!」

彼と会うのは10年ぶりだ。

2023.3.11 PM3:32 @Kurogane-cho, Aoi Ward, Shizuoka

SYUNTA  久しぶり、元気してた?

平木  いやはや、わざわざ悪いねぇ。

SYUNTA  いや、今日ちょうど髪切りに静岡来てたから。今実家に帰ってきてんの?

平木  うん。明日また東京に帰るんだけど、せっかくだからあなたに話が聞きたいなと。

SYUNTA  ハハハ。大した人間じゃないよ。

平木  前々からね、SYUNTAは何しているのかなって気になってたんだよ。インスタみてたらさ、いい写真撮るなと思っていて。趣味で撮る以上のものがあると個人的に感じたの。じゃあ仕事は何しているのかなあって思ってた時に、GOOD ERROR MAGAZINEの宣伝をしてた時があったじゃん? あの投稿を見て、メディアに関わってるのかな? と思ったり。あとはそれこそ、この前の二人展。すごいと思った。あれで写真は趣味じゃなくて、仕事としてやってんのかなと。

高校の時のSYUNTAじゃあ、展示をやったりする姿が想像できなかった。

SYUNTA  そうだよね、そう思うよね。

平木  今は、仕事としては何をしているの?

SYUNTA  サラリーマンだよ。人材系の会社で営業の仕事してる。

平木  そうなの?

SYUNTA   うん。平日は普通にスーツ着て仕事してる。

平木  じゃああの展示はどういった経緯で?

SYUNTA  展示は初めてやったんだ。まず、大学の時からカメラが趣味で。

平木  そうだよな、そこから聞かなきゃな。

SYUNTA  10年会ってないからね、すごく長くなっちゃうよ。

平木  うん、話してほしい。

SYUNTA  なんかね、大学受験くらいから「うまくいかねえなあ」みたいな思いがずっとあってさ。だから大学入って、何かこれまでと違うことをやりたかった。それまではずっと野球しかしてこなかったから。それでダンスサークルに入ったんだ。

平木  ダンスね、カッコいい。

SYUNTA  で、ダンス自体がまずクリエイティブなものなんだけど、そこのダンスサークルで出会った人たちは、絵描いたりとか、イラレで何か作れたりとか、ダンスとは別のクリエイティブなことやってる人が多くて。それまで俺は美術とかめちゃくちゃ苦手で避けてきた道だったんだけど、そういう周りの人たちがきっかけで、これまでの自分は知らなかった世界に触れるようになっていったんだよね。

平木  カメラもそのひとつだったと。

SYUNTA  カメラのきっかけをくれたのが、それこそこの前二人展を一緒にやったCODYっていうやつなんだけど。CODYはずっと絵を描いているやつでさ。サークルにはそういった何か“得意”な分野を持っている仲間が周りにいて、それがすごく羨ましかったんだよね。

平木  そのCODYくんがくれたきっかけっていうのは?

SYUNTA  大学1年の終わりにCODYがいきなり一眼カメラを買ってきてさ。その時自分の中で一眼カメラって、プロのカメラマンが持っているイメージだったから「またCODYが変なもの持ってきたな」っていう感じで見てたんだよ。

でもね、CODYが撮る写真が…いろいろ気づかせてくれるものだったんだよね。ああ、そういう部分を撮ってたんだ、とか。すごくね、感銘を受けた。で、CODYの写真を見た時に、自分は「写る」よりも「撮る」方がいいなと。写真を撮ってみたいって思いが芽生えてきた。そこからバイトして金貯めて、カメラ買って、撮り始める。

平木  いいねえ。初めて買ったカメラは?

SYUNTA  ソニーのα6000。CODYがソニーのカメラだったから、なんとなくソニーの方がいいかなと思って。というのがカメラを始めたきっかけ。

作品の裏には何もない。

平木  就職してからもカメラは続けてた?

SYUNTA  そうだね。しっかり土日の休み確保できて、カメラやダンスも趣味で続けながらみたいなイメージで今のところに就職した。

平木  うん。でもまだ22歳のSYUNTAだ。

SYUNTA  いろいろなきっかけは、3年前なんだよ。コロナが始まった直後くらいかな。多分あの時みんなのマインドが変わったタイミングだと思うんだけど。社会人になってからもダンスのイベントには出てたりしてたんだけど、コロナになってからはそういうイベントも全部中止になっちゃって。なんか、もうダンスじゃないのかなって気持ちだったんだよね。

そんなときに横江亮介さんていう、俺らは「ヨコさん」と呼んでる先輩ダンサーの人が俺にきっかけをくれたんだ。その人は静岡のダンス界隈で影響力ある人で、ダンスイベントとかオーガナイズしてた人なんだけど。元々は東京でダンスやってて、有名なダンスチームのメンバーでもあった。今は静岡でセレクトショップもやってるんだけど。

平木  ヨコさんは地元が静岡?

SYUNTA  そう。で、さらにヨコさんは趣味でサボテンを育てている人だったんだよね。静岡の山奥のビニールハウスでサボテンを育てていて、いろんな場所でサボテンを展示したり、サボテンのイラストをTシャツにプリントして販売してたり。そのシャツは静岡のダンスやっている人たちの中でね、「いいセンスだね」って思われるアイテムだったんだよ。

平木  へえ。

SYUNTA  俺はヨコさんとは元々ダンスのイベントとかで知り合いだったんだけど。3年前、ヨコさんと話している時に、サボテンをもう一度本格的にやりたいっていう話が出てきて。

コロナでいろいろ考え出してたタイミングにヨコさんからそんな話を聞いたから、自分の中でその新しさが響いたんだよね。「サボテンに興味あるので、一緒にやらせてください」ってお願いしたんだよ。その時に俺と、もう一人友達がいて二人で。弟子入りってわけじゃないけど、そのサボテンのチームに入れさせてもらったんだ。

当時はサボテンが実際にどう栽培されているか知らなかったし、それこそヨコさんのTシャツにプリントされている形でしかサボテンを見る機会がなかったんだけどね。

平木  そんな人が静岡にいるんだね。

SYUNTA  俺がダンスを始めた時から存在はずっと知ってて、徐々に知り合いというか挨拶かわすくらいの関係になっていったんだけど。当時大学生の俺からすれば、それまで自分が触れてきた世界とは全く違うものに関わっている人だから、なんなんだろうこの人は? って思ってたんだよ。

平木  じゃあ、そのサボテンのチームはヨコさんとSYUNTAと、そのもう一人の友達?

SYUNTA  そう、もう一人は俺と同い年で元々ダンス仲間なんだけど。今はその3人でやってる。ヨコさんは有名な東京のダンスチームにいたから、全国にネットワーク持っていて、そういうコネクションを活かして、元々一人で全国各地の飲食店とかギャラリーを回ってサボテンの展示をして、Tシャツを売ったりしていた人なんだ。

平木  そこに3年前、SYUNTAたちが加わったってわけだね。

SYUNTA  そう、「THE FASCINATED」っていうプロジェクト名でやってるんだけど。加わってから一緒に奈良大阪名古屋鎌倉東京とか展示で回ってきて、そこから自分の中で何かがガラッと変わってきた。

平木  GOOG ERROR MAGAZINEはどういう関係?

SYUNTA  GOOG ERROR MAGAZINEは俺は直接は関わってないけど、それもヨコさんがやっているプロジェクトで、そういう繋がりもあってインスタで宣伝していたんだよ。

平木  そういうことだったのか。「THE FASCINATED」で全国各地回るのは会社とは別でやってるってことだろ?

SYUNTA  うん、展示やる場所に金曜日の夜入って準備して、土日の休みに展示して、月曜日の朝に静岡帰ってきてそのまま仕事行くみたいな。

平木  忙しいな。

SYUNTA  でもね、全国回っていく中でのヨコさんの知り合いの人たちとの出会いがすごく自分にとって大きくて。それぞれ自分の表現を持っている人たちばかりで、すごいんだよ。そういう人たちの話を聞いたり、仲良くさせてもらったり。いろいろな場所で繋がりができてきてね。

平木  例えばどんなところでサボテンの展示をやってるの?

SYUNTA  名古屋のハンバーガー屋とか、奈良の飲み屋とか、鎌倉だと自分で絵描いたり作家として活動している人がオーナーやっているレストラン兼ギャラリーとか。

平木  そういうのはヨコさんのコネクションで決めていくんだね。

SYUNTA  そうそう。ヨコさんなりのいいなって思う基準やこだわりがあって、それに合致した人や場所でやっている。そういう場所には、なんて言うかな、アンテナ張っている人が集まってくるんだよね。

そういった場所で知り合った人たちのインスタとか見てると、いろいろなことやってたりするんだよ。前までは、それをただすげえなと思ってただ憧れているだけだったんだけど、なんかだんだん……自分の中で、自分もこうやってみたいなっていう気持ちに変わっていってさ。

写真家の人との繋がりも増えてきたし、「もっと本気で写真をやりたい、もっとこだわって自分がいいと思う写真にしていきたい」気持ちが出てきた。その気持ちが最終的にこの前の展示に繋がっていくんだけど。

勇気とは、慣れ親しんだ自分を捨てること。

SYUNTA  話戻ると、自分がカメラを始めるきっかけになったCODYは、何かと俺にヒントをくれるというか、背中を押してくれる存在なんだよね。まあ同志みたいな感じ。

去年の夏、「そろそろ俺らの世代もいろいろ発信していきたいよね」ってCODYと話したんだ。ヨコさんは40代半ばなんだけど、そういう歳も重ねて経験豊富な人たちはいろいろできることがあるし、クリエイティブなものを世に発信できてるけど、俺らの世代も、もうそろそろ発信していきたいよねって。それがどう受け止められるかは別として、俺らの世代もやれるんだよっていうのを見せたいよねって、CODYが言ってさ。

平木  うん(良いこと言うな)。

SYUNTA  その話をした直後くらいかな。俺らの共通の知り合いが、沼津の空きビル活用してるキュレーターの人をCODYに繋いでくれて。そのキュレーターがちょうど展示できる人を探していたんだよね。その展示の場所とCODYの作風が合うんじゃないかってことで、CODYに連絡が行ったんだけど。

「俺らの世代も何かしたいよね」って話をした後だったから、CODYがすぐ俺に連絡くれて。場所的にも一人じゃ広すぎるし、二人で展示をやらないかって誘ってくれたんだよ。CODYが絵で、俺が写真。

平木  SYUNTA的にもその誘いはもうドンピシャだった?

SYUNTA  俺もその時点で「THE FASCINATED」に2年半関わってたから、インプットがすごく自分の中で溜まってた。

平木  それは全国各地を回る中でいろいろな人との繋がりができてってところでだよね。

SYUNTA  うん。そういうのってなかなかみんなできることじゃないし、簡単に繋がりも持てる人たちじゃなかった。そういう人たちがやっていることを見てたり、話を聞いてくうちに、インプットの量がすごいことになってたんだよ。

平木  SYUNTAが言うインプットってのは、もう少し具体的に表すとどんなものだったの?

SYUNTA  なんだろうな……。写真の見方が変わってきたというか。本当に楽しんで自分が良いと思ったものを、ストレートに表現できている人って、その人独自の視点だったり、色味だったり、表現の仕方があって。それをすごく面白く感じられるようになったんだよね。そこから、じゃあ自分だけのものって何だろう?  って考えるようにもなって。

例えばAさんの写真ってAさんが撮ったって言われなくてもなんかイメージできたり、その逆でBさんと仲良くなったけど、いざ写真みたらこんなふうに撮るんだってギャップを感じたり。そういうそれぞれの面白さを感じられるようになってきた。

主に写真に対してだけど、自分の気持ちの変化をもたらす刺激や情報がすごく多かったんだよね。

平木  なるほど。でもインプットはいいとしても、アウトプットしていくのは並大抵のことじゃないよね。

SYUNTA  そうだね、最初は怖かった。そういう自分が尊敬する人たちに見られているっていう意識があるから、なにかその人たちがカッコいいと思うこと、その人たちに認めてもらえるようなことをしないといけないんじゃないかみたいな、そういう気持ちもあった。ただ、徐々に「自分なりの良いもの」を発信したい、表現したいって気持ちに変わってきて。それはCODYの影響ももちろんあるんだけど。本当にタイミングばっちりみたいな感じで展示ができたんだよね。

〈SYUNTA②へ続く〉