一番最初の取材相手を選ぶ時、誰にしようか当然ながら迷った。
インタビュープロジェクトと体裁よくこのサイトのトップ画面には書かれているが、一人の人間のごく個人的な思いから生まれたこのサイトは、現状では「個人ブログ」の域を出ない。そうしたサイトにこれまでなんの関わりもなかった人をいきなり呼ぶのは気が引けたし、かといって身近な人間に数合わせのように頼むのも気が乗らなかった。
そして何より大事なのは”自分がその相手に話を聴いてみたいと本当に思っているか”だった。
そうして頭の中で考えをめぐらせ、浮かんできたのがじゅんきだった。

じゅんきは大学時代に同じ大阪大学のアカペラサークルに所属した同級生である。
彼は抜群のシンガーでありパフォーマーで、人を惹きつける魅力的なキャラクターも備えた同期の中心的な存在だった。
自分は歌が下手だったから、じゅんきのステージでの輝きは憧れだった。
普通に仲は良かったが(彼はみんなと仲が良かった)、頻繁に遊んだり、腹を割って話すということはなかったと思う。

そんなじゅんきに話を聞きたいと思ったのは、彼がnoteに書いたこの記事を読んだことが大きな要因だった。これは3年ほど前に書かれたものなのだが、ずっと自分の頭の片隅に残っていた。
幼い時に亡くなった父親との話、私立の中学を3カ月で辞めた話、ハモネプに出た話、アメリカに留学した話、アカペラで全国優勝を目指した話。
さまざまな障害や苦難を、彼は培ってきた素晴らしい人間性で乗り越えていく。
とても良い話だったからこそ、気付かされることがある。
じゅんきはこのnoteで、今本当にやりたいことをこう定義している。
『仲間と呼べる存在と共に全力で、「ありたい自分」の溢れる世界が創りたい。』
読んだ時、自分にはこれがいまいち理解できなかった。いや、理解できないという事実より、少しだけ寂しい感情が湧いてきたことの方が重要かもしれない。
大学時代からわかっていたし、noteを読んで改めて思ったが、根っこから私たちは違う人間なのだ。流れてきた時間の長さはほとんど一緒なのに、同じ社会の仕組みの中で生きてきたはずなのに、同じサークルに所属していたのに、私たちは全く違う人間だ。

じゅんきが今何をしているのか、私はインスタグラムの投稿でしか知らない。
だから久しぶりに会って話してみたいと思った。
彼は大学卒業後に入社したP&Gを20年に辞めて、今は東京で働いている。
インスタグラムでは筋トレに励んでいる様子と、時々ウクレレの弾き語り動画をアップしている。

正直なところ、今でも私は、ステージの上で本当に楽しそうに、そして懸命に歌っているじゅんきの姿が、”本当”のじゅんきのように感じている。
私が客席で、じゅんきはステージの上。その関係性のまま、私の時間は止まっている。
そしてそれは、悪いことではないとも思っている。

2023.2.19 AM10:58 @Kamimeguro Meguro-ku Tokyo

じゅんき  誘ってくれてありがとう。光栄やわ笑 ほんならやろうか。
平木  最近は歌の練習をしてる?
じゅんき  歌もそうやし、最近はウクレレの練習をめっちゃやってる。あんまりインスタには出てないけど、去年のコンテストでご縁あった先生のレッスンを近所で受け始めてね。昨日もやっててん。
平木  そうなんだ。そこらへんもあとで聞きたいけど、まずじゅんきがP&Gを辞めた時に書いたnoteがずっと頭の中に残ってて。
じゅんき  読んでくれてたのね。
平木  なんで辞めたのか改めて聞かせてほしいなと思って。
じゅんき  まず、なんでP&Gに入ったかというと、もっちんの影響が結構でかいかなぁ。(※もっちん:我々が所属していたアカペラサークルの同期。彼もP&G)
平木  ああ。彼の影響は俺もでかい。
じゅんき  めちゃくちゃ近いところの親友やしさ。俺が留学先のアメリカから日本に戻って、もっちんもデンマークかどっか留学から帰ってきた時に、サークルの後輩たちと長野の阿智村に旅行に行ったことがあったんよ。その時にもっちんといろいろ人生について喋ったんやけど、なんかこいつ少し見ぬ間にでかなっとんなと思って。そこで影響受けて、P&Gという選択肢が出てきたっていうのはある。
平木  なるほど。俺も東京に来る前に、留学中のもっちんと電話で話していろいろ決心がついたなあ。
じゅんき  で、もっと根本にあったのは、小さい頃からグローバルで働きたいという憧れがあった。ざっくり「グローバル」という言葉に何か見えない魅力を感じてた。それはおとんの影響があって。おとんが見てた世界を知りたいっていう思いで、英語を学びたくて留学もしたし。なんとなく社会に出たら世界を渡り歩いている、そんなぼんやりとしたイメージがあったと思う。
平木  もっちんと話すまでは「グローバル」っていう大きなイメージはあったけど、例えば俺みたいに出版社に行きたいとか、具体的な業界とか職種までのイメージはなかった?
じゅんき  そこまで具体的なものはなかった。やっぱ昔からそうなのかもしらんけど、自分の手に届く最高のところを目指したい思いがあったんよ。ストレングスファインダー(※ギャラップ社の開発した才能診断ツール)でいうところの「最上志向」。“より良いものをより良く”みたいな。俺ってそれが一番やねんか。そん時の俺になんとなく見えてた世界の中で一番高いところにあったのがたまたまその会社だっただけっていう。
平木  P&Gでは3年ぐらい働いた?
じゅんき  3年やりました。
平木  それをやめるっていうのは。
じゅんき  なんで辞めたかってほんまどこ行っても聞かれるんやけど(笑)。まあな、めちゃくちゃ有名な企業やし、ちょっと今これっていう明確な理由はわからんけど、なんかな、結局は「自分がもっと自分を表現できる場所があるんじゃないかと思った」っていうのが多分近いのかもしらん。
平木  なるほど。
じゅんき  ちょうど異動の話もあって。俺の部署は地方の工場に3年ぐらい異動になるねん。それは20代後半という時期を自分がどこで過ごしたいかっていうのを、めちゃくちゃ考えるきっかけにもなった。やっぱ俺は、楽しいものを作るとか、お客さんが目の前にたくさんおって、その人たちを笑わせたり楽しませたり、エンタメで人を楽しませるものが好きやなってそこで気づいた。だからいろいろなタイミングが重なったんよな。なんとなくの『グローバル』をいったん卒業して、自分の憧れの生き方をあらためて見つめ直したかったいうか。
平木  それで辞めるってことを決めて、あのnoteを書いたんだ。
じゅんき  当時「AKIOBLOG」っていうYouTuberにめっちゃハマってて。この人すげえ熱く生きてんなと思った。自分が本当にやりたいことを、こんな情熱かけて生きてる人が世の中におるんやっていうのをYouTubeで見てすごい衝撃を受けて。何やってる人なんやろって調べたら、コーチングをやっている人だった。そこでコーチングというものを知って、自分も実際に受けてみたり、コーチする側のセミナーも受けたりしたんやけど。やっぱ自分のことを知るのはめちゃくちゃ大事なんやなということをそこで学んだのね。それで自分が何やりたいんやってというところをほんまに掘り下げて掘り下げて、人生を振り返っていって書いたのがあのnote。元々は自分用に箇条書きしてたんやけど、せっかくなら、1本の文章みたいにしてみようかと思って。

Piper pipe that song again

平木  P&Gの時は神戸で働いていたんだよね。辞めた後東京に来たのは?
じゅんき  生き方を見直すにあたってとりあえず、なんか東京というものに憧れがあってさ。それまではずっと関西で東京を知らないから、自分の中で思い描いている幻想の『東京』があるやんか。それに興味があったし、やっぱ住まないとわからないし幻想のままやし。シンプルに友達もみんなこっちおるし楽しそうやなと思って。P&Gをとりあえず辞めたそんなときに、東京で働いてる高校の同級生がちょうどそのnoteを読んでくれてて、声をかけてくれたんよ。うちの会社どう? って。それでリファラル面接を受けたというかんじ。
平木  あのnoteがまたひとつのきっかけになったんだ。
じゅんき  そうやな。
平木  今はどんな感じなの?
じゅんき  今はめちゃくちゃ楽しい。トータルの人生を楽しんで味わえるようになった。
平木  仕事も含めてって意味で?
じゅんき  うん、仕事もしながら、自分の生き方で”表現する”ということに、少しづつトライし始められているというのが。自分がやりたいことってなんやって考えた時に、やっぱ好きな歌は続けていきたいというのはあったからさ。
平木  そこでウクレレが出てくるわけね。
じゅんき  うん。アカペラをやるのも、ちょうどそのときコロナもあって人集まるのも大変やったから、一人でも歌えるようにしたかったんよ。それで楽器やろうかなあと思ったんやけど、ウクレレってめっちゃ軽いし、弦も4本しかないからさ。その手軽なサイズ感と親しみやすさみたいなものが、自分のキャラにしっくりくるものがあったのかも。ギターを街中で弾いてる子がおったらさ、アーティスト目指してんのかな〜ってなるやん。ちょっと聴いてる方が身構えちゃうというか。でもウクレレをポロポロ弾いとる奴が道端におったらさ、「君、そこで何やってんの?笑」ってなるやん。ちょっと話しかけたくなっちゃう感じ。なんかそれぐらいの距離感が、俺の好きな関わり方に絶妙にマッチしてるのかな。
平木  インスタだと代官山の西郷山公園とかで弾いてる動画あげてたよね。
じゅんき  始めたのが去年の春ぐらいかな。ある時、それこそ西郷山公園でポロポロ練習してたら、アイドルグループが撮影をしに来たんよ。それで、「ほんなら僕BGM弾きましょか?」 みたいな感じで弾いてたら、向こうの方からも話しかけてきてくれて。俺の自転車を撮影で使わせてほしいと。それで、仲良くなってそこで交流が生まれて一緒に写真撮ったりして。こんなことって普通に生きてたら起こらんやんか。でもウクレレ持って街中で弾いてたら、こんなことが起こるんや〜と思ってさ。めっちゃ楽しいなと思えた。向こうも多分わるい気せえへんやんか。横でええ感じの音ポロポロ弾いてて、なんか話してみたら楽しいし。なんか……、こういう感じに近いのかもしらんなっていう感覚を掴んだモーメントだったんよね。こういうのをもっとやっていきたいなと思ったっていうか。
平木  今のじゅんきはオーディエンスとの関係性というか距離感はそれぐらいが心地いいんだ。
じゅんき  そうやな。言うても今もさ、まだまだ自分のことを知っていく旅の途中というか。最近そういうの考えることがめっちゃ好きやねん。これまで全然読まなかった本を読みだしたり、いろいろな人の考え方吸収してメモしたり。そうして見聞きする中でちょっとずつ見えてきているのが、日常ってもっと楽しめるんだっていうのをみんなと共有したいというかんじ。だってさ、壮大な時間軸で見たらさ、ビッグバンから今みたいな幅で見て、この瞬間も、あの人があそこに座っているとか、俺とじゃが丸(大学サークル時代のあだ名)がこうしてこの時代に一緒に時を過ごしてるのってホンマ奇跡やなというか。こんな素晴らしいことないな!とか思ってみたら、なんか天気もいいしみたいな(笑)。ええ天気最高やなって。今手元にあるものってこんな幸せかと思ったら、もうなんか楽しくてしゃあなくてさ。
平木  そういう感覚は今までなかったんだ。
じゅんき  もちろんあったけどさ、最近より強く感じられるようになったというか。なんとなく、自分はそういう考え方が好きなんやろうな。だって横にアイドルおってもさ、なんもせんやん普通。でも、横でテキトーに弾いときますわあ、とか言って話せるのは、何か自分にそういうところが根底にあるんかなとか思ったり。だから最近自分のことをもっと知りたくて、日々気づいたことメモしてんねん。
平木  そういう変化も、ウクレレの影響があるんだね。
じゅんき  結構大きいかもね。自分が表現したかったものが、ひとつ形にぼんやり見えてきたというか、それが自分のパーソナリティとすごく合ってる感覚。あともう一個大きいのは、生活に時間的な余裕を見出せていること。前はもうほんまに朝から晩まで働きっぱなしでヘトヘトになって帰ってきて、また次の朝みたいなリズムだったから。今は意識的に、「目の前のことに追われる」っていう生活から離れるようにしてて。そういう時に、自分にとって本当に大事なものとか、本質が見えてきたりする。だから、それができる今の環境を見つけられたことも本当にありがたい。
平木  俺も仕事辞めてわかったけど、やっぱりそもそもの時間がないと、難しいよね。
じゅんき  そうそう。自分に時間的な余裕がないと、やっぱり人ってどうしても視野が狭くなってしまうから。俺もそういうところあったし、当時からそれをなんとかしたいとずっと思ってたし。

<じゅんき②に続く>

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